2010/07/22

乾杯の辞

ロックン・ロールのの神様に

彼や彼女が幸せであるように

ここにいるすべての人達に

ここにいないすべての人達に

すべてのすばらしい人達に

すべてのすばらしくない人達に

いい事がいっぱいあるように

本当にそうであるように

願わくば私にも
2000.6.6

変身

ある朝、目覚めると私は一人の人間になっていた。

自慢の美しい羽も、誇らしげな角も失われ、醜い鈍重な肉と見苦しい毛だけが私の骨格に纏わりついていた。
落胆のあまり私は初めの数日を泣いて過ごした。
そもそもこれまで目や鼻から液体を分泌した事などなかったのだ。
口からはおぞましい嗚咽が漏れ、それが私を尚一層悲しくさせた。

もう二度と夕暮れの川面を、せせらぎの飛沫をうまくよけながら飛び回ったり、初夏の森の葉陰で仲間達と濃厚な樹液をすすることも無いのだ。
あるとき私は思い立って脱皮を試みたがしかし背中の皮はピクリともしなかった。

死んでしまおうとも思ったが、その方法すら思いつかなかった。
街灯に飛び込んだくらいではこの巨大な体が燃え尽きるとは考えられなかった。
私は運命を呪い神を呪った。

だがそして数日の後、私はついに立ち上がり人間として生きる決心をした。
覚悟さえついてしまえば、なれない2本の足で地面を踏んで歩くのも、獣の肉や草の実を丸ごとほおばるのも悪く無いように思えてきた。
甘い樹液を啜ることはできなくなってしまったが。

それでも私は時々森へ出かけるようになった。
そこで私はかつての生活を懐かしみ、しかし新しい生活も少しずつ楽しめるように思えてきた 。
突然私は左腕にチクリとした軽い痛みを覚え、咄嗟にその部分を押さえた。
手を離してみると左腕は小さく赤く腫れ上がり、右の手のひらには一匹の虫が死んでいた。
それはかつての私自身だった


2000.5.28 BOOKWORM 'Worm Special' とフランツカフカのために

無題

たどり着くための生と
迎え入れるための死とが
同じ物の一部である事を知ったときに
それは古いギターの形をして現れた
僕のすぐそばに 

 
脱ぎ捨てたTシャツのように
僕の手の届くところに


いつか僕はそれ手に取るだろう
必要となったときに
または必要がなくなったときに
何気なく
タバコでも取るかのように


2000.6.1何度目かの誕生日の前日に

電話

君はさっきから
つまらないTVの
スイッチを切れないまま
どうでもいいような相槌を
うっている 

 
ラップにくるんで
冷凍庫に放り込んである
あの夢のことは
できるだけ考えないようにしている


やり忘れた何かが
何であったのか
思い出そうとする事さえも
やり忘れようとしている


自慢だった羽は
先週の土曜日に
タクシーの中に
置き忘れたきり
まだ見つかっていない


君の姿は次第に消えてゆき
唇と肛門だけが
わずかに残されていたが
今ではそれさえも
見えなくなってしまった


ちなみに、

君がずっと探しているものは
さっきあそこの… <以下、無音>

20007.30

告白

僕は今日も
汚れたブーツを履いて歩いている 

 
人と会っても
うまく話すことができない


いくつも嘘をついた
いくつだったかは思い出せない


わかったような顔をしているけれど
本当にわかった事なんて一つもない


君の顔を思い出そう
できるだけ正確に


君とずっといられるならば
不景気なんか僕は気にしないよ

2001.11.3

臭い

近頃、僕の住む世界は
ひどく イヤな臭いがする 

 
ある晩 見知らぬ男が
僕の部屋を訪ねて来て
玄関先で言うことには
こんなにも世界が
腐ってしまったのは
全て 僕のせいと言うことに
なっているらしい


ちょっと 腹が立ったので
殴ってやろうと思って
掴みかかったけれど
なぜか次の瞬間 僕はその男を
見失ってしまったんだ
ちょうど ついさっきまで手に持ってた
部屋の鍵かなんかを
どこかになくした時みたいに


僕はとても不安になったので
友達に電話をかけると
男はその友達のところにも
現れたらしい
別の友達のところにも
また別のところにも
恋人や 先生や
おじさんや おばさんのところにも
 

それを聞いて
僕はすっかり安心したので
その日はぐっすり眠ることにした

そして目がさめると
そんな事はまったく忘れてしまったんだ



いやな臭いは今でも続いている
友達の所でも 別の所でも
恋人や 先生や
おじさんや おばさんのところでも

2000.11.8 これからも住むであろう世界のために

言葉について

僕に今まで届けられた
たくさんの言葉は
一体どこへ行ってしまったか?

それは今も僕の中で
チャンスを覗っている
君に向かって発射されるために
"ズドン!"てね

そうして君に届いた言葉は
君の宇宙をぐるっと
一回りかそこらした後に
ほかの言葉と溶け合って
やがて見えなくなってしまう

不幸にしてそのいくつかは
翌朝のトイレの露と消えてしまうが
生き残ったいくつかは
君の血や肉の中で
またチャンスを待つのさ
誰かに向かって発射されるまで
"ズドーン!!"て

そしてそのうちの一つが
僕に向かって飛んでくる
僕の宇宙へ

だから僕は永遠に見ることのできない
君の宇宙を少しだけ知ることができる

2000.3.15