2010/07/23

トレインソング

いつもの電車に乗る
向かいの席では
私よりも短く髪を刈り込んだ
中年女が窓の外を眺めている
ひざに開かれた、読まれていない雑誌のページには
大きな文字で「花火師」とかかれている


傍らの三人掛けのシルバーシートでは
屈強な男たちが三人
無理やり体を押し込んで
汗をかいている


女子高生たちは
携帯のメールと
期末試験の話に忙しい
一人が事務用のりを取り出して
ソックスを固定し始めた


私はうとうとしながら
気味悪い夢を見始めた
その内容はこうだ


私はこの町と
私が生まれた町の
ちょうど中程にある
古びた遊園地に一人でいる
実際にそんな場所は存在しない
なぜならばその遊園地には
ジェットコースターはおろか
娯楽施設なんてひとつもなく
無機質な灰色の建物が
幾つか並んでいるだけなのだ

要するに私は遊園地と名のついた
ただただ広大な何かの工場か
コンビナートのようなところにいるわけだ
しかもたった一人で

轟音に空を見上げると
ニュースなんかでお馴染みの
よくある形の戦闘機が9機
きれいに編隊を組んで
通り過ぎるところである
確かに、間違いなく9機だ
3機づつ3組だから

ぼんやり眺めていると
後方の一機が
隣を飛んでいたもう一機に接触し
小さく光ったかと思うと
ほぼ垂直に、絶対にありえない角度で
墜落して行く

するとその飛行機が落ちたあたり
まさにそのあたりが
音もなく真っ白に輝きだす
まるで太陽みたいに
私はもう、そちらを見ていることができなくなって
目をそらす

振り向くと
私の後ろではいつのまにか
作業服の男が
見たこともない機械を相手に
ぶつぶつ言いながらなにやら作業をしている
「あの、避難とかしなくていいんですかね」
恐る恐る声をかけると男は手を止めて
「そのうち、放送で指示があると思うから」
面倒くさそうに言うと
道具を片付けてどこかへ行ってしまう

そんなものか、と思い
なぜかもう終わりだなと思う
光はますます強くなっていく
放送は永遠にないだろう
と、ここで目が覚めた

さて、電車は

向かいの女はまた雑誌を読み始めた
「花火師」のページは
とっくに読み終わってしまったようだ


一人に減ったシルバーシートのマッチョは
ぐっすり眠っている
十分にスペースをとって


のりが乾いた高校生たちは
みんな降りてしまったようだ


列車が速度を落として
最後の通過駅を通過する
ホームには17、8歳の少年が立っている
やせて、ひどく不機嫌そうなそいつは
どうやらかつての私のようだ
列車が通過する瞬間
一瞬だけ目が合った


程なく、列車はいつもの終点の駅に

降り立った私は白髪の老人になっていた

2002.7.27