2010/07/23

駅に急ぐ

「君はもう行かないと君の列車に乗り遅れてしまうぜ」
無精髭の聖者がバーカウンターに寄りかかって俺に言う



俺は傍らの荷物を引っ掴んで店を飛び出した
背後からバーテンダーが伝票を片手に追いかけてくるが
今はそれどころではない



道の真中ではでっかい金髪の男が
浅黒い髭面と大声で怒鳴りあっている
俺は奴等の間を割って走り抜けた



急がなくては
何がなんでもあの列車に
乗り遅れるわけにはいかないのだ



遠くで発車のベルが鳴っている
俺はスピードを上げた
町の景色がドロリと融けて
背後へと飛んでいく



次の瞬間 俺は駅にたどり着いていた
「間に合った!!」 

息を切らして見渡すと
辺りには誰一人
駅員すら見当たらない



そこで俺はやっと気がついた
俺が乗るはずの列車など
いや、駅すら初めからそこにはなかったのだ
ただ、人の悪い酔っ払いに
からかわれただけだったのだ



ガランとした空き地を後にすると
俺は今来た道をとぼとぼと歩きはじめた

2003.11.30